技術イベントの振り返りと改善|アンケート設計の極意

技術イベントを振り返る際、まず鍵になるのがアンケートの設計です。

アンケートには「申込時」と「事後」の2種類があり、取得できる情報が大きく異なります。両方を設計してはじめて、イベント全体の効果が可視化されます。

申込時アンケート|ターゲット精度を測る“入口データ”

申込時アンケートは、参加者がイベントに触れる最初の段階で行います。参加前の状態を把握できるため、参加者が「どんな属性を持っているのか」「どのような期待を抱いているのか」を確認するのに適しています。

実際の設計イメージは以下の表の通りです。

目的ごとに「設問」と「選択肢」を具体化しておくと、イベント後の改善に直結するデータを得やすくなります。

取得目的 アンケート項目(例) 選択肢(例)
自社に対する認知把握 ○○社の事業内容に対する認知を教えてください。
  • ○○(SIer・メーカー等)である事を知っている
  • ソフトウェアに力を入れていることを知っている
  • 名前は知っているが、事業内容は知らない
  • 会社名を初めて聞いた
自社×ソフトウェア技術活用の認知把握 ○○社がソフトウェア技術を活用していることを知っていましたか。
  • 具体的な取り組みを知っていた
  • 取り組みの概要または一部を知っていた
  • 知らなかった
業界に対するイメージ把握 ○○業界のソフトウェア技術活用に対するイメージに当てはまるものを選択してください。
  • 最先端の技術に触れられる
  • 大規模な開発に従事できる
  • 〜〜〜
  • 特にイメージはない
自社に対するイメージ把握 ○○社のイメージに当てはまるものを選択してください。
  • 著名なエンジニアが数多くいそう
  • エンジニアとして成長できそう
  • 〜〜〜
  • 特にイメージはない

自社に対する認知把握
自社ブランドの浸透度を測る。単に「知っている/知らない」ではなく「名前は知っているが事業内容は知らない」といった層を可視化できると改善ポイントが明確になる。

自社×ソフトウェア技術活用の認知把握
自社がどの程度技術的に挑戦しているかを参加者が理解しているかを測る。ソフトウェア人材採用では「技術フィールドとしての魅力」が伝わっているかを把握できる。

業界に対するイメージ把握
業界全体の魅力度を測る指標。ポジティブな回答が多ければ業界認知の底上げに成功しているといえる。逆に「特にイメージはない」が多ければ情報発信不足のサイン。

自社に対するイメージ把握
「成長できそう」「著名なエンジニアがいる」など、自社のブランドイメージを測る。業界イメージと比較して「自社ならではの強み」が伝わっているかを評価できる。

こうした設問は単なる満足度調査ではなく、「ブランド浸透度」「技術理解度」「業界魅力度」「自社ポジショニング」といった観点を数値化する役割を果たします。

そして得られた結果は、第2章で取り上げた「コンセプト/ターゲットを設定する|情報発信の土台をつくる」のブラッシュアップにもつながり、継続的な採用ブランディング活動の推進に欠かせないデータとなります。

関連記事:採用ブランディング活動のはじめ方【TECH PLAY -Branding Method- 第2章】

事後アンケート|態度変容を測る“出口データ”

一方で事後アンケートは、実際に参加した人が「どのように感じたか」「どんな変化があったか」を把握するものです。満足度だけでなく、自社や業界への印象変化、次回参加意欲まで確認できます。これにより「イベントを通じて何が伝わったのか」を可視化できます。

さらに、アンケートの結果にポジティブな変化が見られた場合は、それ自体が発信内容がターゲットの認知変容や態度変容を生んだことの証明になります。これは「採用ブランディング施策として有効だった」と説明する強い根拠になります。

また、得られた成果を次の施策に活かす方法として、コンテンツ・リパーパス(再活用)の発想が有効です。

例えば、イベントのアーカイブ動画やイベントレポートをまとめて、

  • スカウト文面にリンクを添える
  • 面接予定の候補者に事前視聴してもらう
  • オウンドメディアやSNSで配信する

といった形で活用すれば、単発イベントの価値を拡張し、採用活動全体の効率化やブランド認知の拡大にもつながります。

共通ポイント|アンケート設計の鉄則

アンケートを有効に機能させるには、設問数を絞り込み、回答のしやすさを意識することが不可欠です。特に技術イベントでは、参加者が「学び」に集中したい気持ちが強いため、アンケートが長いと負担になり回答率が下がってしまいます。

そのため、選択式を中心に設計し、必須項目は最小限にとどめましょう。

さらに、登壇資料の配布や抽選でプレゼントなどの「回答特典」を設けると、参加者が自然に答えたくなる仕掛けになり、回答率が改善します。

また、イベント中に回答を促すアナウンスをしたり、終了後のフォローアップメールで複数回リマインドを送ることも効果的です。

こうした小さな工夫の積み重ねが、振り返りに活かせる十分なサンプル数を確保するポイントになります。

PDCAを回す具体的なステップ|改善サイクルの作り方

イベントの成果を最大化するには、定量と定性の両面から振り返り、次回施策へとつなげる仕組みが必要です。

まず定量面では、申込数・参加率・アンケート回答率といった数値を記録し、過去回と比較します。

例えば「申込数は増えたが参加率は下がった」という場合、リマインドメールや当日の導線設計を見直す必要があります。

一方で定性面は、参加者の声や印象の変化を丁寧に拾い上げます。

「この企業はエンジニアに裁量を与えていると感じた」「技術的な知見を持つ社員が多そう」などの声は、採用ブランディングのゴール達成を測る重要な指標です。

こうした結果を整理するには、「ゴールの達成度」「良かった点」「改善点」を一枚の資料にまとめることをおすすめします。ナレッジが蓄積され、同じ失敗を繰り返さないチーム文化が育ちます。

振り返り資料のフォーマット例

タイトル:イベントタイトルを記載

企画ポイント:

  • 職種:XXX
  • ゴール:定量:XX/定性:XX
  • ターゲットとペルソナの設定:ターゲット:XX/ペルソナ:XX
  • 提供する学びポイント:XX

定量:

  • 結果
  • 良かった点
  • 改善点

定性:

  • 結果
  • 良かった点
  • 改善点

総括:XX

さらに、第4章で解説した「企画書の作り方|棚卸しからテーマ設定、タイトル案へ」で作成した企画書を振り返り資料のベースとして活用すると効果的です。

企画段階で明確にしたターゲットやゴール、想定ペルソナを振り返り指標と照らし合わせることで、イベント設計の意図と成果を比較でき、改善点がより具体的に浮かび上がります。

関連記事:エンジニア採用ブランディングに効く技術イベントの作り方【TECH PLAY -Branding Method- 第4章】

よくある悩みと改善ポイント|典型課題と処方箋

振り返りをしていると、多くの企業が共通してつまずくポイントが見えてきます。

悩み 改善ポイント
例①
集客が上手くいかない

PVが低い→タイトル/集客経路に改善の余地あり
タイトルがターゲットに合った内容になっているか。外部露出しているか(企業HP、求人票、SNS告知、エージェント共有、SNS広告等)。

CVR(PV/申込数)が悪い→概要文に改善の余地あり
イベント概要がペルソナの悩みを解決する内容になっているか。

例②
イベント満足度が上がらない

企業説明の時間が多くないか
技術イベントは採用目的ではなく勉強できているユーザーが多いため、企業説明の時間が多いと満足度が下がる。

イベントタイトル/概要文と合致した内容になっているか
イベントタイトルや概要文と、実際の登壇内容にギャップがあると満足度が下がる。

“イベントでしか聞けない話”を盛りこめているか
ネットで調べれば分かる話だけではなく、登壇者ならではの知見を盛りこめているか。

例③
ターゲットに参加してもらえない

ターゲットに届けられているか
告知場所や告知経路を見直しましょう。

ペルソナの設定が間違えていないか
ペルソナが抱えている悩みを解決するイベントではないと興味喚起ができません。ペルソナが正しいものかネットで調べたり、周囲のエンジニアにヒアリングしてみましょう。

集客が伸びない|タイトルの抽象度を見直す

まず「集客が伸びない」という悩み。

これはタイトルが抽象的すぎることが多いです。

実際に、下記のような比較は分かりやすい事例です。

集客に苦戦するイベントの例

DX経営の高度化に向けた価値創出をするには
株式会社TP DX推進部 部長 山田太郎

ビジネス環境が劇的に変化するなか、企業にとってICTの重要性は高くなってきています。弊社ではデジタルはあくまでも手段と捉え、多くの導入実績とコンサル力によって最適なソリューションを繋ぐことでDX経営を実現しています。今回はその具体内容をお話します。

  • 「DX」「高度化」「価値創出」というワードが曖昧な表現で、具体的に何を指しているのか分からない
  • 具体例がなく、一般的な通説のみになっており、ここでしか聞けない話と思えない。技術勉強会というよりはビジネス職向けのセミナーのような印象

TPの開発環境改善をアーキテクトとして取り組んだ事例
株式会社TP プロダクトチーム テックリード 佐藤ようじ

TPはサービス開始から10年以上続いています。過去の開発者たちが積み上げてきた改善サイクルを継続するためにアーキテクトとしてどのように取り組んでいったかについて紹介します。

  • アーキテクトとして何を取り組んだのか、工夫点の記載があるとより良い
  • 「どのように取り組んでいったか」の中身が箇条書きで記載されているとより良くなる

「DX経営の高度化に向けた価値創出をするには」など、抽象的なキーワードが多く、どのようなサービスや技術を扱うのかが不明確。説明文も一般論に留まり、現場の工夫や失敗談といった“ここでしか聞けない話”が不足している。

集客しやすいイベントの例

リリース10年『TP』アプリの技術負債を乗り越える際の4つの観点
株式会社TP 基盤チームリーダー 田中たかし

リリースから約10年以上経ち、現在月間UU数億人を超える技術プラットフォーム「TP」。アプリ初版リリースから10年以上が経ち、やはり長い年月サービスを支えてきたプロダクトは技術負債が蓄積されていきます。そんな中で、サービスの改善を止めることなく、技術負債をどうやって返済していくか、TPでのアプローチ方法をご紹介します。

  • JavaからXXへの書き換え
  • フルスクラッチで作り直すか?リファクタリングにするか?
  • 開発チームと運用チームの組織分割
  • 負債に向き合う際のメンタルヘルス問題

良いポイント

  • どんなサービスのなんの話をするのか分かりやすい
  • どの程度の規模感のサービスなのかが分かると大変さが分かりやすい
  • 同じ状況にいるエンジニアが共感する課題や悩みを記載
  • 学びポイントや技術的にどんな話が聞けるかが具体的に記載されている

「リリース10年『TP』アプリの技術負債を乗り越える際の4つの観点」のように、具体的なサービス・技術・課題が明示されている。Javaからの書き換えやフルスクラッチかリファクタリングかといった具体論が提示され、参加者が自分の経験や関心と結びつけやすい。

結局のところ、タイトルと概要でどれだけ具体的に価値を示せるかが、集客の成否を大きく左右します。

また、外部露出経路が限られているケースも見受けられます。

求人票や企業HP、エージェント経由の告知を組み合わせることで、認知経路を広げる必要があります。

満足度が低い|「イベントでしか聞けない話」を盛り込む

次に「満足度が低い」という悩み。

参加者は学びを求めているのに、企業説明に時間を割きすぎると不満が出ます。

内容がタイトルと乖離していたり、ネット検索で得られる一般論ばかりだと、期待外れ感が強くなります。ここで重要なのは「イベントでしか聞けない話」を必ず盛り込むこと。

現場のエンジニアしか語れない課題や失敗談は、それだけで満足度を高める要因になります。

ターゲットが違う|ペルソナと告知媒体を再精査する

最後に「ターゲットが違う」という悩み。

これはペルソナ設計が曖昧な場合に起こります。

「誰に来てほしいイベントなのか」を再度精査し、そのペルソナが日常的に触れる媒体で告知することが欠かせません。

まとめ

第5章では、技術イベントの効果を最大化する「振り返りと改善」の方法を解説しました。

  • アンケートは“入口”と“出口”をセットで設計する
  • 数字と声を合わせて振り返り、改善サイクルを回す
  • 集客・満足度・ターゲット精度の課題は必ずパターン化して改善可能
  • 成功するイベントは「具体性」と「共感性」で参加者を惹きつける

イベントを単発施策で終わらせず、継続的に改善しながら採用ブランディング資産へと育てることが重要です。

あなたの会社の技術イベントは「やりっぱなし」になっていませんか?

今日から「次回につなげる仕組みづくり」を意識してみてください。

より詳細を知りたい方へ

本記事では「TECH PLAY -Branding Method-」第5章の内容を中心に解説しました。

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全5回にわたってお届けした「TECH PLAY -Branding Method-」は今回が最終回です。第1章から読み返したい方は、連載一覧からご覧ください。